オーガナイズドセッション開催にあたって
現在いろいろな分野で扱うことが可能となった、高次元のデータをもとに新しい研究のチャレンジを考えたい。特に、人の知覚や意識、社会性に関して手に入る高次元のデータをどのように解析し理解したらいいか、同時に人の知覚や意識をつくり出すためには環境の複雑さのデザインとして、どのような高次元のデータを生成することが必要か、そうした問題を具体的なモデルやシステム、データ、実験システムをもとに議論する場を持ちたいと思い、今回のセッションオーガナイズとなった。
もともとのモチベーションは、池上がやってきた人工生命の研究経験をベースに、Living Technologyとして人工生命のアイディアを発展させる理論をつくり、技術開発することである。Living Technologyとは、人工生命の研究が育んで来た「自律性」「能動性」「持続性」「進化可能性」の基礎研究を、技術として現実世界のなかに実現する可能性を探ること。また、岡がpingpongプロジェクトを立ち上げてこの数年やってきたウェブ上でのサービスにおいて、人工生命のアプローチを取り入れることである。そうすることで人間と情報システムが、まるで人間同士で行われるような自然なインタラクションを実現できる可能性がある。また自律システムを介在させることで、いままで気がつかなかったデータの収集、場の構成を、データそのものに自律的に行わせることができる。そのことで、マッシブデータの解析で問題となる、人が持ち込む人為的な視点を経ずに、データを解析することができるかもしれない。
もともと人工生命の理論は、ミニマルなモデルをつくることで、生命現象を生成あるいは理解しようということにあった。その人工生命のモデルを大量のデータフローを用いた大スケール、大自由度の問題へと拡張することで、新しい技術(これがLiving Technology)に結びつけようということである。これにより、よりシリアスなアプリケーション分野へ適応することが可能な、複雑な状況を扱うことができ、かつロバスト性の高い自律システム応用の基礎を議論できると考えている。
これまでの多くの技術は人が使うものとして発展してきたが、ここではシステムの自律性/人からの非従属性を技術として応用しようとしているところに注目している。こうした理論的解明・技術開発のアプローチを取っているがゆえに、新しい情報環境の構築だけでなく、これまで明らかになってこなかった人間自身の知覚・認知特性の解明という側面についても期待することができる。それが、このセッションオーガナイズと結びついている。
そこで、本セッションは、パネルベースとし、この分野で活躍されている研究者をおよびし、それぞれデータの生成側から観たとき(たとえば、廣瀬さんらの公共空間で無意識的に行動を誘導する「Thermotaxis」)と、解析側から観たとき(たとえば、角さんらのIMADEルーム)に分かれて、debate形式で進める。発表予定者をA、Bの2グループにわけて、Aが発表してBがそれについてdebateを、次にBが発表してAがdebateする、という形式をとる。
こちらで用意しているdebateの要点としては、
1. データフローを、意味ある部分とノイズに分けて考えることの是否。
2. データが大自由度であることではじめて分かること・分かったことはなにか。
3. 解析手法では何が有効か。
4. マッシブなアウトプットでなければ表現できないものはなにか。それはアートか。
5. マッシブデータに拡張した人工生命の理論化は可能か。
などについて議論する。これらの要点をTwitter上(ハッシュタグ #mdflow)であげてもらい、議論を前もって進めておきたい。
各スピーカーの発表の要旨は、以下のプログラム通りである。
※ 各スピーカーの主要論文を順次アップしていく予定である。
オーガナイザ
池上高志 @alltbl (東京大学)
岡瑞起 @miz_oka (東京大学)
参加メンバー
廣瀬通孝 @_anohito(東京大学)
徳田英幸 @hxt00(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)
角 康之 @y_sumi (公立はこだて未来大学)
前田太郎(大阪大学)
増田直紀(東京大学)
森純一郎 @jmori(東京大学)
石黒浩 @hiroshiishiguro(大阪大学)
橋本康弘 @yashichi(東京大学)
笹原和俊 @soramame0518(東京大学)
プログラム
日程:2011年6月3日(金)13:00~17:30
会場:アイーナ いわて県民情報交流センター
13:00 – 13:30 開催趣旨
岡瑞起、池上高志
13:30- 14:30 セッションA (15分発表/人)
廣瀬通孝
「デジタルミュージアムとライフログ」
概要:デジタルミュージアムにおいては、展示対象物のモノとしての情報のほか、それにまつわるコトとしての情報(来歴、使用法、それがおかれた環境や人工物の場合は作られた背景など)の収集も必要である。こういう問題に対していわゆるライフログ技術がいかなる役割を果たしえるのか、デジタルミュージアムプロジェクトにおける実践について報告する。
徳田英幸
「Sensor enabled cyber-physical coupling for everyday objects」
概要:身のまわりの日常的なモノに単純な無線センサを取り付け、サイバー空間とリアル空間のカップリングを実現する手法について議論する。
増田直紀
「会話相手の予測可能性」
概要:我々は、ある人と話した後にはある特定の誰かと話しやすいだろうか?日立製作所中央研究所と行ったデータ解析結果を紹介する。予測可能性はあること、その主な理由、個人の予測可能性と社会ネットワーク上の位置との関係などに触れる。
森純一郎
「大規模ネットワークデータの分析と社会応用」
概要:本発表ではソーシャルネットワーク、企業取引ネットワーク、メールネットワークといった実データに対する分析と解釈を通じて、どのように実社会問題の解決に大規模ネットワークデータを活用するかを議論する。
10分休憩
14:45 – 15:30 パネルディスカッション1
石黒浩、前田太郎、角康之、笹原和俊、橋本康弘
15:30 – 16:30 セッションB (15分発表/人)
石黒浩
「新しい情報メディアとしての遠隔操作型アンドロイド」
概要:遠隔操作型アンドロイドは、操作者の存在を遠隔地に送る事ができる新しい情報メディアである。この情報メディアによって浮かび上がる人間や人間社会の基本的な問題について議論する。
角康之
「マルチモーダルデータに基づいた多人数インタラクションの構造理解」
概要:会話や共同作業中に生ずる非言語情報の「辞書と文法」を構築するために、発話、身振り手振り、身体移動、視線、頭部運動といったマルチモーダルデータを計測し、それらの時系列パターンをマイニングする試みを紹介する。
前田太郎
「ヒトの行動意図の推定と誘導 -直観的な非言語インタフェースへの応用から-」
概要:抽象的なシンボルを用いず直観的な感覚提示によって感覚運動行為を支援するインタフェース、パラサイトヒューマンを紹介する。意識下の行動意図の形成メカニズムを推定し、錯覚を利用して行動の誘導を実現する。
笹原和俊
「鳥の歌の発達学習ダイナミクス」
概要:鳥の歌は様々な音要素からなる時系列で学習によって獲得される。我々は歌の発達学習の連続記録を行い、後生的風景の観点から分析した。このような大規模発達データが可能にする新しい行動学の展開について議論する。
橋本康弘
「都市におけるジオタグ付きツイートデータの統計」
概要:都市におけるジオタグ付きツイートデータについて、ツイート群の時間・空間的な特徴を分析し、都市環境のセンシングに対するツイートの有効性について議論する。
10分休憩
16:40 – 17:25 パネルディスカッション2
廣瀬通孝、徳田英幸、増田直紀、森純一郎
17:25 – 17:30 終わりに 池上高志